【ゴールデンカムイ】熊は物語に欠かせない存在！ヒグマの習性や登場シーンも

まずは『ゴールデンカムイ』についての紹介から始めましょう。今から100年以上前の北海道・樺太を舞台にした同作は、明治末期の時代を背景に日露戦争帰りの主人公を軸にした物語です。特にアイヌ文化や熊の紹介という要素を取り入れた漫画はかつてなく、話題にもなった意欲作といえるでしょう。

『ゴールデンカムイ』の作者は北海道北広島市出身の野田サトルです。2003年にデビュー作『恭子さんの凶という今日』を発表し2011年から週刊ヤングジャンプでアイスホッケー漫画『スピナマラダ！』を連載します。連載終了後、約2年の準備期間を経て2014年に『ゴールデンカムイ』の連載が開始されました。

週刊ヤングジャンプ2014年38号から連載が開始された『ゴールデンカムイ』は明治末期の北海道・樺太を舞台に繰り広げられる歴史冒険漫画です。単なる冒険漫画ではなく、狩猟・グルメ・アイヌ文化といった要素を含み人気を博しました。アニメ化は2018年よりスタートし、第４期までが放映されています。週刊ヤングジャンプ2022年22・23合併号で物語は幕を閉じましたが、実写映画化が発表されてますます注目を浴びる作品になっています。

日露戦争終戦後、戦場で「不死身の杉元」と呼ばれた「杉元佐一」は幼馴染「梅子」の目の治療代を捻出すべく、砂金取りのため北海道に来ていました。ゴールドラッシュに沸く北海道で杉元はアイヌの隠した莫大な金塊の噂を耳にします。金塊の行方を追う杉元は突如現れた野生のヒグマに襲われますが、アイヌの娘「アシリパ」に救われました。その後、杉元はアシリパの父は金塊との関わりを持ち、殺害されたことを知ります。2人は幼馴染の治療代とアシリパの父の仇討ちのために行動を共にするのでした。

ゴールデンカムイに欠かせない要素の1つか熊（ヒグマ）の存在です。日本には２種類の熊が生息しています。そのうちヒグマは北海道に生息する熊です。日本のもう1種の熊、ツキノワグマと比べ2〜3倍ほども大きく性格も凶暴といわれます。北海道を舞台にしたゴールデンカムイに登場する野生の王者について、その特徴を探ってみましょう。

『ゴールデンカムイ』第1巻で杉元は土饅頭に埋められた刺青の囚人を運び出すところで子連れの熊と遭遇します。杉元が囚人を発見した場面でははらわたを食われた状態で埋められていたところでした。ヒグマが食べ残して土饅頭にして埋めたという描写でしたが、実際ヒグマはこのように食べ残したエサを埋める習性があるとのことです。そして食べ物への執着は大変強く、自分の食べ物と認識したものは人間の遺体でも取り返しに来ます。

ヒグマに限らず成獣のオス熊は交尾のために邪魔な子どもの熊を食べてしまいます。正確には自分の敵である子どもの熊を食い殺すといったところかもしれません。なせ子どもの熊を敵と認識するかというと、オス熊としては自分の遺伝子を持たないものは同族といえど敵と見るからだといわれます。また子どもを持つメス熊は交尾を拒むので、オス熊が子どもを排除するという意味もあります。

『ゴールデンカムイ』第1巻での杉元が親子の熊と遭遇する場面では、最初に遭遇したのが樹上の子どもの熊でした。子どもの熊は好奇心が強く人も恐れないのですが、その子どもの母熊は人間にとって非常に危険な存在です。この場面での杉元はエサの横取りと子どもの熊への接近という、2つの危険行為を犯していたことになります。ヒグマに限らずツキノワグマでも子どもの熊に接近するのは非常に危険な行為です。

熊と遭遇した時にやってはいけない行為の1つとして、背を向けて逃げてしまうというものがあります。熊からすれば背を向けて逃げていくものは獲物として認識し、捕獲するつもりで追いかけてきます。もしもアウトドアで熊と遭遇してしまっても後ろを向いて逃げようとせず、また熊の目を直視しないようゆっくりと後退りしながら距離を取るようにしましょう。

『ゴールデンカムイ』第1巻でヒグマが前足の一撃で焚き火を吹き飛ばす場面があるように、熊は火を恐れません。これはヒグマに限らずツキノワグマにもいえることです。映画などで野生動物に対して松明などを使って追い払う場面がありますが、熊に関してこの行為はまったく役に立たないことは『ゴールデンカムイ』の読者であれば周知の事実かもしれません。

『ゴールデンカムイ』の第2巻で第七師団に追い詰められた杉元はヒグマの巣穴に飛び込みます。アシリパからアイヌの言い伝えとして「ヒグマは巣穴に放ってきた人間を決して殺さない」と聞かされていたからです。しかしこれを実際に試した人はいないようなので、真偽の程はわかりません。あくまでも作品上の言い伝えとして捉えるべきです。ちなみに冬眠中でもヒグマの巣穴に近寄るのは危険な行為なので、もし巣穴を見つけても近寄らないようにしましょう。

『ゴールデンカムイ』の主人公とでもいうべき活躍をするヒグマですが、ここからは作品中での印象深いヒグマの登場シーンを振り返ってみましょう。改めて振り返ると熊の魅力と恐ろしさをまざまざと教えてくれる作品だと感心します。やはり熊は見た目だけの可愛さに騙されてはいけない動物です。

『ゴールデンカムイ』第1巻で土饅頭に埋まっていた刺青囚人を掘り出し、運び出すところで杉元は木の上にいるヒグマの赤ちゃんを発見します。赤ちゃんだったことに安堵しかけた杉元でしたが、ヒグマの赤ちゃんがいるということは側に母熊がいるだろうことに気付き不安になった束の間に突如として母熊に襲われます。しかしこのおかげで杉元はアシリパと出会うことができました。

杉元に抱かれ懐の中で「ブブブブ…」と鳴く様子がたまらなく可愛いヒグマの赤ちゃんのシーンでは、杉元がアシリパに食べられるのではと心配していたところでした。しかし杉本の胸元で「ブブブブ…」と鳴き声を発するヒグマの赤ちゃんはあっさりと見つかってしまいます。慌てふためく杉元の表情と無邪気なヒグマの赤ちゃんの様子が微笑ましいシーンでした。

『ゴールデンカムイ』第2巻において、人間との戦闘で殺された母熊を目の前で見ていたヒグマの赤ちゃんは杉元に抱かれます。人間に母親を殺されたヒグマの赤ちゃんは何を思うのでしょうか。幼い表情の中に切なさが垣間見える印象深いシーンとなっていました。

脱獄王かつお笑い担当の白石由竹はヒグマの赤ちゃんに頭をかじられる羽目になります。ヒグマの赤ちゃんは獲物にかじり付くハンターとしての表情を見せてくれるのがニヤリとさせてくれます。白石はヒグマの赤ちゃんだけでなく、他のさまざまな野生動物に頭をかじられるのですが、彼の頭は動物にとってかじるだけの魅力があるのでしょう。

ハラハラする戦闘シーンや冒険シーンの合間に子供たちの姿が描写されるとホッとします。時折アイヌの子供たちと遊んだり戯れたりするヒグマの赤ちゃんの姿も微笑ましいシーンです。見落としてしまいがちな小さなコマの中に何気なく子供たちとヒグマの赤ちゃんの姿が描かれているのも『ゴールデンカムイ』を読む楽しみとなっているでしょう。

『ゴールデンカムイ』の作中、人間の脅威として立ちはだかる最強の敵ともいえるヒグマですが、凶暴な性格をしつつも臆病なのも確かです。作中でヒグマに追いかけらる白石はベルトを投げ捨てると、見事に蛇と勘違いしてくれました。熊は蛇が嫌いとのことですが、実際は必ずしもそうだと言い切れないようです。科学的な実証はされてないようなので、参考までの知識としておきましょう。

熊は熊でもヒグマではなく、シロクマの剥製を着て走る江渡貝くんのシーンも忘れてはいけないものでしょう。舞台も夕張で剥製師である若き職人、江渡貝弥作は個性の点ではヒグマを凌ぐ名キャラです。ちなみに江渡貝の着た剥製のシロクマは子熊のものですが、成獣の剥製では大きすぎて着て走ることは不可能でしょう。

『ゴールデンカムイ』の作中、最強の男といえば「牛山辰馬」で間違いないでしょう。異常なほどに強い性欲を持つものの、その佇まいや紳士たる振る舞いは読者も敬服する存在です。人間に対する最強の脅威として描かれるヒグマとの戦闘でも、ボォンと投げ飛ばす様子はさすが不敗の牛山と呼ばれるだけのことはあります。投げられたヒグマの姿は名シーンといえるでしょう。

自称動物学者の「姉畑支遁」は野生の動植物ことに北海道の動植物をこよなく愛する刺青の脱獄囚でもあります。ただ愛といっても性的な意味での対象として動物を見ているわけで、動物を襲った挙句に惨殺してしまう危険人物です。この男の思い描くヒグマの描写では凛々しく雄々しく立派な姿をしてました。彼の思い描く熊のファンもいるようです。

各地を放浪し常に薄笑いを浮かべているアイヌの占い師「インカラマッ」の見た夢の中では12頭ものヒグマが登場します。アイヌにとって神聖な動物であるヒグマに囲まれるというのは、いくら夢の中とはいえ恐怖に潰されそうになる気もします。しかし彼女は神聖な存在に囲まれ天国に導かれる感覚に満足しているのでしょう。

『ゴールデンカムイ』人気の影響でアイヌ文化に脚光が当たるようになってきたと言われています。アイヌ語研究の第一人者も舌を巻くほど正確に描かれている作中のアイヌ文化はどんなものなのでしょうか。『ゴールデンカムイ』作中の描写に沿ってアイヌ文化に触れてみましょう。

『ゴールデンカムイ』では金塊をめぐる戦闘や個性豊かなキャラクターなどに注視しがちですが、その背景となる舞台は北海道であり、北海道そのものの魅力も十分に表現されています。そして様々な要素を詰め込んだ作中で特に目を引くのが当時のアイヌの人々とその文化でしょう。ゴールデンカムイの土台は北海道であることは物語の様々な場面で感じ取ることができます。

ここ数年で生まれたアイヌ文化への関心の高さを担った一翼は『ゴールデンカムイ』であることは疑いようのない事実といえるでしょう。作中では作者の緻密な取材や調査による描写が正確に描かれていると言われています。明治から大正にかけてのアイヌ文化を描くには並大抵の取材ではなかったであろうと想像つきます。そのおかげで読者はアイヌの衣食住をはじめとするアイヌ文化を知ることができるのです。

『ゴールデンカムイ』を読む読者の楽しみの1つが野生動物で作るジビエ料理やアイヌの天堂的な食事といったグルメです。時にはどんでもない勘違いをするアシリパの描写も面白いのですが、登場キャラの食事の様子にはそうそう味わうことのできないアイヌの料理に羨んでみたり試食したいと望むことでしょう。熊との戦闘だけでなく心惹かれるシーンです。

『ゴールデンカムイ』の登場キャラは強烈な個性を持つ人物が多いのですが、一際キャラが立っているのは「熊」かもしれません。ゴールデンカムイではリアルに近い形で熊と、そして熊と人間の戦闘する描写がされています。読者は作中の熊からどんな感想を持ったでしょうか？

『ゴールデンカムイ』ではヒグマとの遭遇率がとても高いように感じられます。しかしそれは研修医の皆さんにとって納得できる確率なのでしょう。

北海道内での出来事であることがよくわかるニュースです。『ゴールデンカムイ』の読者ならきっとこのニュースで作中の姉畑と熊を想像したのでしょう。時折現実と漫画の世界がシンクロすることがありますが、妙に高揚します。

現代の日本ではそうそう体験できないことを描写してくれる『ゴールデンカムイ』は関心とともに興味心をくすぐられる作品といえるでしょう。しかし取材によってこのような熊との戦闘を突き止めたであろう作者の探究心に頭が下がります。

『ゴールデンカムイ』は様々な要素を含んだ宝箱のような楽しさを描いた作品です。中には残虐な戦闘シーンや種々の問題を含んだ描写もあります。それらを北海道を舞台として展開される物語は読者を引きこんでくれる作品ともいえます。そして明治から大正という波乱に満ちた時代を駆け抜ける『ゴールデンカムイ』の群像劇に、すばらしいアクセントをつけてくれたのが人間ではなく熊という存在だったのではないでしょうか。